グッドジョブ本人

いいものや面白いものがたくさんあふれていたよってことやんわりと残しておく

ユーチューバーinliving.が来たのでサブカル島はもうおしまい。

いんりびんぐ

もうだめだ、おれたち。いつか来ると思ってたけど、こんな形で、こんなにも突然やってくるなんて思わなかった。

30代もなかばになると、まったく新しいものに喰らいついてくより自分に馴染むものを探し出すほうに貪欲になる。ポップミュージックだと細野晴臣のかおりがするからとか、90sアシッドジャズの居心地に近いからって失礼な理由で「期待の新人」とか言ったりして。トラップとか上モノ軽くてよくわかんないもん。

そんなだから、ユーチューバーなんてもうぜんぜん無理。ちんちん出してクラスの人気者になるような手法で作品なんて言われてもどうしろってのさ、映像ってもっと作り込んで、奥ゆかしく楽しむものなんじゃないの。みんなもきっと、そう思うよな。

昨日までそう思ってた。

www.youtube.com

「こんばんは、いんりびんぐです。今は真夜中というか、もう朝になるんですけど、ぜんぜん眠れなかったので、ポテトサラダでもつくろうかと思いまーす」

inliving. - YouTube

そんな流れになるかよ!とは思ったけど、もういい。おれたちもっと大きなこと話し合わなきゃダメだ。

Twitter経由でこの動画を観てからもうかすかな動悸が断続的に続いている。家賃6万クラスの1Kキッチンに野田琺瑯イッタラ持ち込み、襟なしのシャツを着たボブい子が右手薬指に指輪をしたまま料理する動画。そんな様子に適度にボカした映像、手書きフォント、アコースティックなBGMがまぶされて……ん”ッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!ん”ッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!アッ!!!!!!

このinliving.というチャンネル、本当にすごい完成度。まさかYouTubeでこんな丁寧に暮らしてる人が存在しただなんて。「おれこういうの待ってたんだよ!」というありがた気持ちよさと「えっこれをYouTubeでやっちゃうんだほんとに?!」ってむずがりが両方振り切って溶け合わない。いや、気持ちとしては後者のほうが大きいかもしれない。だってこんなのユーチューバーじゃないもの。

おれが思う女子×料理ってこういうビザールなものだと思ってたんだ。そうだろ?基本的にいろんなものを犠牲にしながらインパクトとか面白さとかを全面に出していくってものっぽいじゃんユーチューバーて。

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それがinliving.の手にかかるとこうだよ。まずはおじいちゃんからもらったじゃがいもを洗います!?

おじいちゃんのじゃがいも

ハァ…セカイ……。

いや、ここまでコンセプトメイクしっかりして自然体でございの映像作品が、ひとりの女の子によるねぐせ自撮りシリーズのはずがない。アングルもワーディングもただごとではないし、これは血で血を盛り合うプチプラメイク動画ユーチューバーを根絶やしにする、という明確な殺意を持って戦いに来てるやつの目(上目づかい)だよ。

そう思って、「これアレだ、ほんとの『気になって調べてみました!』のやつだ…」なんて言いながらずっと調べてた。「メイクはコンシーラーとワセリンしか塗ってません」って発言にキーキーのたうち回ってる妻が風呂入ってる間に調べたよ。

RATM

その結果、どうやらyawnことカメラマン末永光と、シャムキャッツのMVなんかにも出てる(そのあたり!)モデルririkaによるきちんとした企みのようだとわかった。公式サイトのブログには丁寧に商品リンクが貼ってあったりして(薬事法だいじょうぶか的なのもあるけど)、そういう意味でも作り込みがすごい。映像作品ってことを一旦おいて、Z世代のメディア最適解みたいなものを見ているようで感心してしまった。

inliving.jp

本当の意味での自然体じゃなかったことに心の底から安心したのだけれど、でもこういう丁寧動画がYouTubeの土俵に上がったことと、自分の庭に新しい波として押し寄せて土壌削りにきているということ、それに対する脅威の気持ちは今のところぜんぜんおさまってはいないです。こういうのってほら、プライベートなもので、SNSとかで間接的に観られるものだったじゃん。それがこんな…こんな……。

日本インターネットのじめじめした歴史の中で、こういう控えめな生活感をにじませることができたのって、従来はテキストと風景写真だけだったよ。だからおれたちはインスタ始めても料理と旅行先しか上げないし、ライターが顔出したら読モだなんだとケチつけて後ずさりした。なのにもう動画で暮らしをコンテンツにして、それを回していくユニットが出てきました。ぼくりりじゃなくても今日は葬式です。

このYouTubeチャンネルはこれからも登録数を伸ばして、話題も広がっていくことでしょう。それがどういうことにつながるのか、すごく楽しみであり、とても恐ろしく思っている。