ブラジルで世話んなった宿のオーナーが来日するってんで、同宿だった面々集めて渋谷で呑んだ夜がありました。楽しく話して店を出て、一本締めでもやりますかってタイミング。「わ!久しぶりじゃん!!」といきなり現れた青年、なんと過去にその宿に泊まってたんですって。で、彼は我々の大団円ムードをまっすぐに破壊して宿主とひたすら話し続けた。そして周りでうろたえる私達はちっとも締まれずで…そんなことがありました。約10年前の話です。彼は今、ナオト・インティライミとして活躍しています。
誰か彼の歌を聴け
ナオト・インティライミは変だ。映画「旅歌ダイアリー」の面白エピソードや先の話から漂うマイペースさもそうだし、ペルーの祭りの名前を拝借したアーティスト名も、それを「プロデューサー・インティライミ」「ドラマー・インティライミ」などとアルバムクレジットなどに印字させる徹底ぶりもそう。そんなだから彼は評論家やネット廃人たちからことごとくいじられてきた。
でも私がもっとも違和感を覚えていたのは、彼というよりその周囲。なんで誰もナオト・インティライミの楽曲には明るくないわけ?彼の「粉雪」や「Stay Tune」がどれか、ファン(・インティライミ)以外で挙げられる人おらへんやん。そう不思議に思っていたタイミングで、彼が音楽との向き合い方を取り戻す(?)べく世界へ旅に出るとか言い出した。
ならば。この機会に私も彼の音楽と向き合って、知りたい。こうなったらとことんで、彼の音楽も肌で感じるべく、凱旋ギグとして7月10日に愛知で行われる「ナオトの日」記念ギグにも行こう、と決めた。
旅のインプットとアルバムのアウトプット
いろいろ書いたけど実際のところ純粋に興味もあって。彼はブラジルやトリニダード・トバゴなど、私が音楽的に興味を持って旅行した国にことごとく渡航していたんです。同じキセキ(軌跡)を持つ者として、彼がどんな音楽を創るのかめちゃくちゃ知りたかった。なのでまずはオリジナルアルバムをすべて聴くところから私の“旅”がスタートした。
※インディーズ作品やソニーミュージックでの初回デビュー期のものは割愛。「ナオト・インティライミ」としてユニバーサル・シグマから出たオリジナルアルバムだけを追っています。
1st「Shall we travel ??」(2010年7月)
しょっぱなからタイトル「旅」。内容も「世界を股にかけた男」として売り出したいんだんろう、ラテンアメリカ発祥のジャンル中心を取り入れたナンバーが点在するバラエティに富んだものになっている。シングルの「カーニバる?」は湘南乃風「睡蓮花」とかのタッツカタッカ速いビートが特徴的なトリニダード・トバゴのパワーソカを取り込み、次の「HOT! HOT!」にはレゲトンとかでおなじみのカリビアンビート曲。かと思えばアコースティック弾き語り、スローバラード、四つ打ち…なんていろいろ忙しく、ファーストアルバムにしてすごく楽しく聴ける作品である。ちなみにスパイスの効いた楽曲のアレンジは、だいたいモーニング娘。「ブレインストーミング」はじめハロ曲でヤンチャしてる大久保薫が担当していた。
2nd「ADVENTURE」(2011年5月)
「旅」から「冒険」にタイトルが変わったけれど、曲調としては保守的なJ-POPの“いい曲”が大量に流し込まれた感のあるセカンド。中盤「おまかせピーターパン」を投入して初めてカーニバルでかき回すまでひたすらスタンダードなJポップだし、終盤にレゲエフレーバーのラブソングが来るので、本作を通じて「ああナオトは世界に出なければ駅前で弾き語りしてる系の人か」という印象を強くした。
- アーティスト: ナオト・インティライミ,常田真太郎,SHIKATA,O-live,大久保薫,Soundbreakers,REO,小山晃平
- 出版社/メーカー: ユニバーサル シグマ
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3rd「風歌キャラバン」(2012年4月)
冒頭の曲からエレクトロサウンドで、ナオトの声もオートチューン加工が。ほかの収録曲もいろいろとシンセが強調されていて、“ダンスナオト”の幕開けとなる1枚…だけど収録シングル「君に逢いたかった」「愛してた」に関してはひねらず至極まっとうなJ-POPラブソングで、そこらでいちいち揺り戻されるような感覚に陥る。
エッセイやブログ読むとナオトが常に迷いと戦っているマンだとわかる。なので本作を聴く間は「彼はレーベルやファン(・インティライミ)の求めと自分のやりたいこととのギャップに悩んだろうな…?」と想いを馳せがち。
4th「Nice catch the moment!」(2013年5月)
Jamiroquaiのアレでも始まるのかと不安にさせるイントロ→地声スキャットによるオープニングが刺激的。2曲目のトロピカル&ダンスミュージックな「Brand new day」続く「恋する季節」も純然なJメロにミドルの4つ打ちが組み合わさって小気味よく、真ん中にバラードを置きつつも後半に再び「Ballooooon!!」でブチ上げるなどギアがわかりやすく入ってくる。前作の心地悪さ、初作の散漫さがなく、ナオトの器用さと「オマットゥリ男(自称)」らしさがめちゃくちゃいい形で出た良作。いやほんとめちゃいいわこの作品、一番売れた盤だし。ヘブン状態みたいなジャケも好き。
Nice catch the moment!(初回限定盤)(DVD付)
- アーティスト: ナオト・インティライミ
- 出版社/メーカー: ユニバーサル・シグマ
- 発売日: 2013/05/15
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5th「Viva The World!」(2014年10月)
5枚目にして「世界」を口にしたマン。サウンドがやたらきちんとし出してJ-WAVE感がすごく、「The World is ours!」で「ああサッカー好きだもんな」というようなアンセム感のある曲を出しつつも突き抜けたリズムは一切なく、かといって内省的でもなしという異様にモニャる1枚。向こう側の景色が描かれた壁を前にハンマーを手にするナオト、というのがすごく漂わせてる。
6th「Sixth Sense」(2016年9月)
最新作。彼はコレ作った四半期後に旅立った。前作同様に突き抜け未満で、毎回コンスタントに取り入れてきたような外国の音がほとんどない。演歌 ✕ ヨーロッパな短調曲「sayonara」とか新機軸はあるものの主役にはならじで、それ以外のものは以前聴いたね…っていう停滞感がすごい。快作「Nice catch the moment!」前に旅によるインプットがあったって前例を考えると、私でも本作のリリースギグ後即旅だな。
と、6枚を一気に聴くことで彼が自分の手でどんな楽曲を作り、旅からどんなものを得るのかがぼんやりと見えてきた。なので凱旋公演はそりゃもう豊穣に満ちた素晴らしい公演になるだろうと確信した。
迎えたナオトの日とその誤算
もうすでにツイートしているので結論から先に言う。超やっちった。
完全にしくじった。世界を旅してド派手凱旋ギグと思いきやナオトの日ってセトリなしの単独弾き語りライブだった(ていうか昨年のサブタイトルに「ノープラン」て明記してあった)。ソカのビートもEDMの派手な音も全くないし、曲もマニアック。ファミリーシートの子供達に「今日は面白くないよ」て…
— 本人(-3.1kg) (@biftech) 2017年7月10日
「ナオトの日 スペシャルLIVE 2017 〜おまたせ、おまかせ、おまっとぅり!ウェルカムバックでナオトの日!〜」の難易度は高かった。ホームに帰ってきたのに、味方一つ付けずバックパッカーノリのライブだった。
開演時間を過ぎて照明が暗転。会場の外から物販やモギリブースを冷やかしながら旅人の格好で向かってくるナオトの様子が“中継”され、会場が沸き立つ。彼が男子トイレでゆっくりズボンを下ろし、それをナオトの声のナレーションが「ちょっとー?!ライブ前だよ!!」とツッコミの声が入るという“中継”というか寸劇が10分ほど続き、彼が一般の入り口からステージに。
「ごめんな!待たせたな!」ある種期待どおりの、ナオト劇場が開幕。正方形のステージの四角に置かれた4種類の帽子を眺め「(ベレー帽見て)いい絵が描けそうだけどこれじゃねえw てかどうやってインティライミになるんだっけ?」などと茶目っ気たっぷりに魅せる魅せる。
ああ、音だけをとは言いながらも抗えない。私はナオトのこういうところが苦手だ。言葉選びのノリは特にしんどい。「ウタ」「キミ」みたくカナ表記で詩性を付けてくる古風な感覚もだし、「〜しちゃう系?」「〜のヤーツ」みたいな体育会のノリが生理的に受け付けない。ねえ本当に「オマットゥリ男」を自分の二つ名にしていいの?なんて思って、彼の元気に反比例して私はゴリゴリに下がっていった。
圧倒的なナオト
「ただいま!このただいまって気持ちをどうやって歌ったらいいんだろうな?」なんてうそぶきながら、ノープランギグがスタートした。「どうしようかなー?アレだな―?」なんて言いながら、ナオトは「ちょっとみんなの声聞きたいな?」とCコードから始まる即興メロを展開。「エーオー!」とコールアンドレスポンスを仕掛け、アリーナ会場360度がたちまちひとつになった。
あっそうだ思い出した。ナオトこういうところすごい。何年か前の国立競技場クローズセレモニーギグの日も、最初「誰やこいつ…」みたいな雰囲気のところを突如「雪だるまつくーろー」と当時上映された映画の節を入れて一気につかんだのだった。
で、それ以降の演目は…正直なところ、単にストレートな弾き語りライブだった。「お初インティライミはさ、これがナオト・インティライミのライブだって思っちゃダメだよ?」なんて言われてもおれ来ちゃったしなーと思わされたり、事前に募ったリクエスト用紙を箱から出しておきながら「はいはいはい、こっちね?あーでも今は違うなあ」と結局選り好みする様子にマジかと驚いたり。めちゃくちゃ俺様感があるな、と思ってやまないけれど、これがナオトなんだな。
ナオト、やっぱり強引だった。ここまで費やしておいてアレだけど、知ってた。次のアルバムには期待している。でも、それに伴ってまた振り回される体力があるかどうか、今の私にはちょっと判断が難しい。